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○●ラクダの文化誌―アラブ家畜文化考●2015年10月20日 09:33


堀内 勝 (著)
単行本: 464ページ
出版社: リブロポート (1986/03)

■商品の説明
受賞歴
第8回(1986年) サントリー学芸賞・社会・風俗部門受賞

内容(「BOOK」データベースより)
アラブ遊牧民のひとコブラクダに関する膨大な知識・伝説を全て網羅し、ラクダを基点にアラブ文化を解読する世界初の野心的試み。

著者について
堀内勝(ほりうち まさる、1942年6月- )は、アラブ文学者、中部大学教授。
山梨県生まれ。東京外国語大学アラビア語科卒業。カイロ・アメリカン大学大学院課程修了。中部大学国際関係学部教授。1986年『ラクダの文化誌』でサントリー学芸賞受賞。専門領域は言語人類学・民族誌。

■目次
はじめに
第1章 アラブのラクダ観 3
第2章 名高いラクダ 19
  ―アラブ種の名種、名産地―
第3章 ラクダを崇める 37
  ―サムード族伝説と神聖ラクダ―
第4章 ラクダを記す 56
  ―歴史に名高いラクダ―
第5章 ラクダを叙す 65
  ―ラクダの体の部位(1)―
第6章 ラクダのコブについて 85
  ―ラクダの体の部位(2)―
第7章 ラクダの蹄について 101
  ―ラクダの体の部位(3)―
第8章 ラクダが生きる 108
  ―成長段階―
第9章 ラクダが年とる 141
  ―ラクダの年齢階梯
第10章 ラクダが群らがる 171
  ―「群れ」考(1)―
第11章 ラクダを数える、頭数 189
  ―「群れ」考(2)―
第12章 ラクダが鳴く(1)
  ―アラブの擬声音文化考(1) 208
    ラクダ以外の動物のオトマトペイア―
第13章 ラクダが鳴く(2)
  ―アラブの擬声音文化考(2) 221
    ラクダ以外の動物のオトマトペイア―
第14章 ラクダが運ぶ 241
  ―駄用ラクダ―
第15章 ラクダが引っ張る 258
  ―牽引用ラクダ―
第16章 ラクダに乗る 274
  ―乗用ラクダ・旅用ラクダのこと―
第17章 ラクダが歩く 292
  ―距離単位、ラクダ日―
第18章 ラクダが踊る 308
  ―キャラバンソングについて―
第19章 ラクダに据える 345
  ―ラクダ鞍の考察―
第20章 ラクダに掛ける、吊るす 378
  ―運搬用荷具―
第21章 ラクダで身をあがなう 401
  ―血の代金とラクダ―
第22章 ラクダで(めと)る 418
  ―婚資について―
第23章 ラクダで税を払う 431
第24章 ラクダを信じる 442
  ―ラクダに関する俗信―

  引用・参考文献 456
  おわりに 461
装丁 加藤光太郎

■はじめに
  本書は定住民と遊牧民の重層する伝統的アラブ社会の中にあって、基層文化を保持した遊牧社会の基本的家畜であったラクダに視点をあてて追究したものである。 もちろん、「文化誌」としての領域にも、生態学的、生物学的観点は混入している。 本書でも随所に触れられているが、こうしたラクダの自然科学的側面、その発生から進化・生息分布等については、概説的に「動物」「家畜」関係の類書に触れられているし、和書では特に加茂儀一著『家畜文化誌』に詳しい。 考古学的知見、発生論、進化論はすべてその書に譲ろう。
  本書ではアラブのラクダ観を通して家畜文化、遊牧民文化、アラブ文化の個別文化としての特殊性と普遍性を追ってみた。 「ラクダ」という動物と最も深いかかわりを持ったアラブの、人間と動物との文化的対応と諸層を、アラブの内側からの視点で探ろうと心懸けた。 ラクダを通してのアラブ民族固有の価値観、認識の仕方の分析、思考の型の抽出に意を注いだ。 具体的にはアラビア語のコーパス(資料体)の言語分析を主に、現地人・西洋人の旅行記、さらに筆者の現地調査による聞き書きとをつき合わせて追究したものである。
  資料体は巻末に記したように数多くあるがそれでも、本書の利用に供したものは筆者の能力不足から、まだまだ少ない。 またアラビア半島の現地調査とはいっても二つの大きな制約があって思うにまかせないのが現状である。一つはサウジアラビアを初めとする湾岸諸国は調査を受け容れずビザをくれないこと。 特に遊牧民の調査となると不可能である。 他は車の普及にともなってラクダの価値が殆ど無きに等しくなり、ラクダ遊牧民が急速に解体してしまってきていることである。 従って本書に供した筆者の現地の知見は、アラビア半島の遊牧民といってもイエメン、シリア、ヨルダン、パレスチナ、ネゲブ、エジプトといった半島周辺の砂漠地帯の調査行に基づくものである。
  スーダン南部ヌエル族の牛と人間の深いかかわりは、エヴァンス・プリチャードの名著『ヌエル族』によってつとに名高い。 人間のあらゆる生活様式を牛の属性に喩え、また意味付ける発想は、牧畜生活を基盤におく文化領域ならある程度推察はつくであろうし、プリチャードのように長期に深く現地調査をすれば、その具体例から分析できよう。 アラブ遊牧民の場合は家畜の用途の中に、本書でも比重をおいた乗用、競争用の訓育が加わり、用途の一層の広がりのあることは特記せねばならない。 中央アジア、アナトリア、サハラ以内のアフリカにおけるラクダ遊牧民とはこの点が相違しよう。
  またもう一点、ラクダを中心として他の家畜との重層構造が多層的に展開できることも牧畜文化の深層を探る上では重要なポイントとなろう。 本書でもいくつかの章の中で、ラクダと他の家畜、動物についての比較を試みているのもこうした構造化を探り得るとみたからに他ならない。
  本書を一層理解していただくためには、筆者の前書『砂漠の文化』(教育社、歴史新書<東洋史>B2)を併読されたい。 アラブの基層文化としての理念的遊牧民像・遊牧民社会を追求したものであり、この中にもラクダ遊牧の伝統的姿とその価値観についてある程度言及しており、透かして読みとり得るはずである。 本書は前書の内容的基盤に立って、もっぱら家畜にスポットをあてたものなのである。